6週間

 いろんなオートバイに乗ってきた。歴代所蔵バイク目録には80機とある。あきれた数字だ。ただし俺はつまみ食いはしない。腰をすえて付き合う。だから見ようによっては少ない数だ。これが俺の知っているバイクのぜんぶなのだから。
 雑誌のインプレッションの多くは、伊豆スカイラインなどの風光明媚な別天地(いまや地元となったが)にバイクを持ち込んで、ちょいと味見したものがほとんどだ。対して俺のインプレッションは、そいつを所有し、いれあげて、しつこく語る流儀である。
 兼業主夫になって一年がたつ。放縦放蕩なバトルツアー三昧の人生にいったん別れを告げる覚悟を決め、ママごとじゃないモノホンのプロ主夫をめざして一年。それはそれでスリリングなエヴリデである。しかしながら、いまだ多くの時間を金を得るための仕事に費やしていることを恥ずかしく思う。はるかにヒモに劣る。家事だけで食っていくのがプロってものだ。やるからには、ヒモもマッツァオの第一次専業主夫をめざす。険しい道だ。
 こんなふうだから、性根まで生活エンスージアストになるのも無理はない。ちょうどオートバイを乗りかえるように、生活エンスーは住む土地、町を吟味する。そして選んだ町との関係をひとつひとつ構築し、同化していく。それは、はじめて乗るオートバイのブレーキやクラッチの感触を確かめ、試し、うししとにやけるのに似ている。町乗り、高速道路、峠道をこなし、新鮮なひとつひとつの癖を、うしし、うしし、とモノにしていく。こうして2000kmぐらい走るとひととおり同化が完了し、安定期に入る。しかしここからが、新車を次々と乗りかえる別荘族との大きな違いである。生活の本拠として、安定を得た関係に甘んじず、たえず土地との新たな異化を求めて細かなブラッシュアップと錬磨をつづけなければならない。それは生活のカスタマイズともいえるし、走りこみともいえる。
 小田原に移住して6週間。残すところ、あと3つの項目をもって初期関係の構築が完了する。インプレッションを記すにいい時節である。