谷崎の関西移住は、彼が生活と芸術の両面で周到な注意を払いながら遂行した自己革命であり、彼の年代の作家が大正末から昭和のはじめに一様に襲われた危機からの脱出の過程でもあったのです。・・中略・・彼の自己革命は結局自己の精神の斜面にしたがって生きることであり、彼はただこういう生き方が彼の芸術を肥らせる結果に終るように刻苦し、工夫をこらしただけです。(中村光夫『谷崎潤一郎論』新潮社)
大江健三郎の文学入門本を読みおえたので、引越ダンボール箱に手を突っ込んで無作為に次の本を取り出した。中村光夫の谷崎潤一郎論だった。
ここに論じられていた谷崎の文学スタイルをまとめると、
- 生涯を通じて思想的幼児性を貫いた。
- 感覚を絶対とし、欲望に対して徹底して誠実だった。
- 地震をきっかけに関東から関西移住。
- 女、ことに脚に対する崇拝、一方で感覚の玩具としてしか見ない蔑視的態度の混在。
谷崎が関東大震災に遭ったのは、37歳、箱根で小涌園コーナーを乗合自動車で通過中のときであった。
- 作者: 中村光夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1956/04
- メディア: 文庫
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