駿府城へ夜桜ツアー

 最終電車が小田原駅に到着する時間を過ぎてもワイフが帰ってこない。
 都内でひさびさに上司と飲むと言っていた。駅までクルマで迎えに行こうかと思っていたが、連絡もない。朝がた、めずらしく貧血をおこして会社に遅れて出勤していた。
 やっと電話がつながった。新宿駅のホームで気分が悪くなって、そのままベンチでうずくまっていたという。
「おい、出動だ」
 声をかけると、ふとんで眠っていた娘はがばっと起きた。ふだんはいたって寝起きが悪いのだが、夜の出動に胸躍るのはバトルツアラーの血か。
 小田原厚木道路から東名高速へ。助手席で娘はずっと歌をうたっていた。昨年夏に深夜出発で北海道に行ったとき*1を思いだした。
 東名川崎の料金所でUターンし、港北パーキングエリアで待つこと十分。ワイフを乗せたタクシーが入線してきた。娘が大きく手を振って合図し、無事合流。
 パーキングの食堂で娘はカレーライスを食い、僕はひさびさに煙草を買って吸った。
 天井からぶらさがっているテレビがニュースを報じていた。高知につづき、列島で二番目に桜開花を迎えた静岡市の映像。
「行くか?」
「そうだね」
「行くの?」
「行こう」
 インプレッサWRX・STIは東名高速を西進し、静岡市へ。
 ゆっくり市内を流した。いい意味で都市だ。深夜でも人が動いている。
 駿府城のほとりでクルマを停めると、偶然、みごとな桜の前だった。娘が最初に気づいた。ワイフも歓声をあげた。煙草を一本吸って、帰途についた。
 小田原にもどると、ちょうど東の海が赤く染まるころだった。ちょっとまわり道だったが、外輪山の尾根伝いの峠道を走って、眺望のいいところでクルマを停め、ふたりを起こした。夜景の余韻を残す黎明の街明かりと、その向うの海の夜明け。記憶に一生残る光景となったはずだ。
 バトルツアー2006、開幕。


*1:列島弾道バトルツアー「ケモノは北へ」→http://www.bunbun.com/tour/index.html