0:10 博多発カーフェリー内

 カーフェリーといっても、かなり小さい。
 この小さな船の一室しかない雑魚寝部屋が奴隷船状態。ひとりあたり肩幅分の幅。しかも横も前も後ろも、むっちり日焼けしたアイアンマンがひしいめいているものだから、ほんとうの奴隷船の様相である。スパルタクスの乱。
 日本人、韓国人が半々ぐらい。しかしマイ毛布とマイ枕を持ち込んでいるのは僕ぐらい。枕と毛布を抱えての搭乗は、さすがに恥ずかしかった。
 コンビニで買った弁当を食い、黒霧島を飲みながら狭いスペースでストレッチしていると、韓国人アイアンマンが片言の日本語で、
「フクエ? アイアンマン?」
 へらへら愛想笑いしながら「イ、イエス」なんて、変な英語交じりでの返答しそうになるのをぐっとこらえて、ここは日本、美しい日本、美しい日本の私は、毅然たる表情で、
「ん?」
 と言ったら、
「ニッポンジン、デスカ?」
 ときやがって、つ、つい、「イエス」
 言ってしまってるではないか、やっちまった愛想笑い。