知床東端の相泊(あいどまり)温泉へ

 母艦インプレッサルイガノ号を回収し、ワイフの行きたがっていた相泊の有名店「熊の穴」へ向かう。相泊はクルマで行ける公道としては知床の先端にあたる。ここから先に進むには海をまわるしかない。著名人も多く訪れた熊の穴店内は、めずらしく客は俺たちだけ。名物のオヤジの姿が見えない。亡くなったのだろうか?
 メニューとボリュームは変わっていなかった。イクラ丼2つを注文し、食す。
 帰りがけに相泊温泉に入った。海岸にブルーシートを張っただけの小屋。男風呂と女風呂にわかれている。無料である。10年前に訪れたときは、ただの海岸で何もなかった。

 知床越えの汗を流す。湯温が高く、カラスの行水にはぴったりだ。
 相泊を後にし、海岸沿いを根室方面に向かって南下。途中、野付半島に立ち寄り、原生花園を小一時間ほど歩いた。帰路はワイフとマドカは馬車に、俺はマラソン。馬車はだいたい人の足の半分の時間で進むとおばちゃんが言っていた。
 コンピューター、大型レンズ2本、一眼レフのフル機材を背負って馬車と並走。12kgの機材が肩に食い込むが、馬の方は15人ばかり乗せたクルマを引っぱっている。あの枝みたいに細い足のどこにそんなパワーが隠されているのだろう。筋肉の不思議を思った。
 ときどきペースを上げて馬車をやりすごし、写真を撮る。また馬車を追いかける。こんなことをくり返しているうちに、ひとりふたりと追走者がでてきた。子どもかと思ったら、大人。馬車と並んで、俺と追走者たちがつづく。このおかしな光景に、馬車の中の人々は風景を見るのも忘れてこちらに声援を送っている。
「お父さん、フォレスト・ガンプみたいだった」
 あとでワイフが言った。