交通事情(ODAWARAインプレッション4)

 小田原の交通事情をひとことで述べるなら、新興のメガマートに囲まれて、すっかりヒマになってしまった雑貨屋といったところか。
 俺自身、松戸に住んでいたころから何十回も通りかかっているのに、小田原はいつも素通り地帯だった。というのも、西湘バイパス、小田原厚木道路東名高速と国道246という超級のバイパスルートらがほぼ並走する位置にあり、よほど意識して小田原に降り立とうと思わないかぎり、知らぬうちに通過してしまう構造になっている。周囲には、箱根、伊豆を筆頭に、ヤビツ峠、富士、丹沢といった華やかなスポットが多いこともあり、ますます小田原は通過されやすいポイントである。
 これが幸いしてか、地元人にとっての主要道である国道1号線が渋滞するところは今のところ見たことがない。箱根あたりだと、休日の国道1号線は蟻の這い出るすきまもないほどに渋滞するし、伊豆方面からの帰途ルートである国道135号もまた休日渋滞ルートだが、小田原から西湘バイパス、小田原厚木道路へとさばけてしまうので、市内には渋滞が及ぶことはない。
 ただ、小田原横断ルートがバイパスの競演であるのに比して、南北をつなぐルートは貧弱というしかない。国道255を中心に分かりにくい県道がいくつかあるだけで、交通量は多い。ただ、ちょっと遠まわり、というか、うねうねしすぎていて距離が長くなることをいとわなければ、西側の南足柄広域農道、東側のやまゆりラインといった広域農道を使えば気持ちよく抜けられる。距離や時間よりも胸のすくような歓喜を求めるオートバイ乗りおよびチャリダーには、うってつけのルートである。
 なお、TZR50Rで探索活動をしているときに、たまたま、お宝ルートを発見した。単に舗装林道を思いつきで走っていただけなのだが、地図にもナビにものっていない道のわりには、やけに抜け道顔の地元車が多く通る。何度か踏査と、地図上の突き合わせを行なった結果、これが国道1号箱根渋滞区間の抜け道(箱根裏街道のさらに裏を通っている)になっていることを発見した。久野林道という。これさえあれば伊豆・箱根の帰りも怖くない。ただし、この道が意味を持つのは小田原市民だけだろう。抜け出る場所が、かなりマニアックな小田原市街地なので、遠来のドライバーやライダーには意味がない。さっさとバイパスルートを使った方が早いに決まっているからである。
 鉄道に目を向けると、これだけのイナカなのに新幹線が止まる。僥倖である。平塚の方がよほどビッグなのに。
 また、ここは新宿と並ぶ小田急の本拠地(小田急というぐらいだから、小田原急行ってことだと勝手に思ってます)。JR東海道線も、東京発の列車もたいていは小田原までは一本でいく。「小田原行」というのをよく見る。
 何が言いたいかというと、わりと便利だよということだけじゃなくて、俺のような節度のない酒徒にとって、終電で寝過ごす心配が少ないというのは、かなりだいじなことなのだ。車内で目が覚める。もぬけの殻の車内のいやな雰囲気。ホームの向うの闇が濃い。あぁ、またやっちまったかというけだるさと、やるせなさ。俺はどこまで馬鹿なんだと思いつつ、ホームに降り立つ。蛍光灯に白く浮かび上がった駅名を、なかば投げやりに見ると、小田原。嗚呼、小田原。アポロ13号の生還せり、の心境だ。神の慈悲に跪(ひざまず)く。神様、俺はもう二度と馬鹿酒を飲みません。