自動車教習11時間目(第1段階)無線教習

 今日の教習は雨。課題は無線教習、踏切、見通しの悪い交差点。
 しかしいきなり教官が横にすわっている。
「あのぅ、無線教習って聞いたんですけんど」
 教官は何やら意味のよく分からない説明をして、「ほんじゃまあ、行きましょうか」と教習開始。無線教習でひとりで乗るものと思っていた俺は、前夜から厳しいイメージトレーニングをかさねていただけに少し落胆。何十枚とコピーした教習所内コース図を走行軌跡の赤ペンで真っ赤赤に染め上げ、しかもただのイメージトレーニングではなくって、教習コースを北海道の大地にかさねあわせるという、きわめて難易度の高いものだ。
「ああ、いいなあ北海道のクランク」
「ややっ、次は北海道の坂道発進」
「いやぁ雄大だな、北海道の踏切」
 こんな調子で、幻覚まがいのものが現れるまで北海道写真とコース図を交互に睨み、特殊なイメージで脳内を浄化していただけに、モチベーションは鼻息荒く綱を断ち切らんとする闘牛のごとく、ふんっふんっぶるるっ。
 というわけで、クルマにばたむと乗るや、気持ちは完全にホッカイドー、雨の北海道。オートバイでは何度行ってもいつも雨に打たれていた北海道、それが、当然のことながら雨に濡れない北海道もあったのだ。これ素直に感激。
「な、なんでそこで窓あけんの! 雨入るでしょが」
「あ、すみません」
 長年雨に打たれてきたせいか、濡れないと罰があたりそうな気がして落ち着かない。気持ちを紛らわせるため、先日考案した雑談教習に積極的にいそしむ。ドカティの話題で雑談クランク、BMWの話題で雑談坂道発進。教官は軽く右膝を打ち、
「いいですよぉ、じつにスムーズですよぉ」
 と、うんうんとうなずいている。ワイフのゼファー750の話で雑談踏切。ちょうど昨年の今ごろ乗っていたゴールドウィング1800の話をしつつ雑談S字。思考とは別のところで、下半身が勝手に動いている。うんうん。
 とはいっても、まだクルマめに押し出されている感覚が9割だが、1割だけとはいえ、こいつコマしたるという余裕がでてきた。このコマしたるという感覚が5割を越えてこないと、道具というやつは使用者の言うことをきかないものだ。オートバイだとイテコマしたる感が9割を越えると手足のように動くようになるが、1割の怖れを残しておかないと、どかん! とか、すってん! とか、ぢょぎり、となってしまうから注意が必要だ。
「はい、では今日はここまで。明日はみきわめですね。まあ、こんな感じでいつも通りやってください」
 教習が終わったときには、雨が上がっていた。週明けには仮免許が手もとにあるかもしれないと思うと、またしても北海道な気分が高揚してきた。
 そうだ! 仮免許で北海道一周したやつっているんだろうか?