自動車教習19時間目(第2段階)みきわめ

 「仮免許 練習中」のプレートをつけて、インプレッサ・ラリー嘘レプリカ車でけっきょく300キロ近く市街地を走った。路地に入ってしまい、ビビったことも数度。そんなときに限って、教官役のワイフは眠っていたりする。
「まあ、眠れるぐらいになったら合格でしょ」
 とワイフの言うように、少しは北海道を走っている自分がイメージができるようになってきた。インプレッサも徐々に北海道仕様に仕上げて気分をもりたてていこう。
 昨年(2004年)からWRC(ワールドラリー)が北海道で行なわれるようになった。六連星インプレッサが北海道を走るならラリーウィングは必需品であるとの主張に、ワイフはボーナスをはたいて中古のSTi用純正ウィングを買ってきた。装着するときに、純正の六連星のロゴをはがしてもらい、かわりにコロナビールのロゴを貼ってもらった。
 次に電源を確保すべく、インバーターを装着。家庭用コンセントで140Wまでの機器を車内で使えるようになる。パソコン、携帯電話、デジタル一眼レフキャメラの充電が可能なはずだ。これでモバイルオフィス(移動オフィス)として最低限の仕事はできるはずだ。ヴァケイションではない。あくまで今回の北海道は日常の延長であり、来るべき渡世人ライフの実験でもある。
 スピードをだすつもりはないが、取締対策レーダーも新調しようかと思う。今使っているものは、もう何年もオートバイに実装してきたものなので、スイッチ類が馬鹿になってきている。
 それにしてもクルマを運転するというのは、何と憂鬱なものだろう。自習にも身が入らなくなってきた。もうこんなもんでいいか、という感じもある。
 
 教習としては最後の時間である第2段階のみきわめ。
 路上運転については教官から特に注意はなかった。もっとも300kmも自習したのだ。が、所内での車庫入れが一発で決まらない。ぶつかったり、縁石に触れたりはしないが、あやふやなやり方でおぼつかない。何度か練習をさせてもらったが、いまひとつ。縦列駐車は儀式みたいなもので問題なし。卒業検定では車庫入れが鬼門になりそうだが、まあ何とかなるのではないかと思っている。
 北海道出発まで1ケ月を切った今いちばん考えるのは、免許をとることよりも、そのあとの短期間の運転トレーニングにあると思う。俺の場合、他のクルマの動きに対して、どこまで自分を冷静に保ち、自分の技量にみあった運転(つまり法定速度運転)に徹することができるかだ。クルマに対する敵意とワイフは言ったが、正確には違う。世の中の無神経に対する怒り、だ。悪は意識的だし少数だ。しかし無神経は、ときとして善人の皮をかぶり、最悪なことにそこら中に蔓延している。
 先日のプールでの喧嘩で俺がいちばん愕然としたのは、自分の無神経を自覚できる可能性は絶望的な確率でしかないということだった。無神経は犯罪ではない。だからなお気づきにくい。へたをすると一生気づかない。しかし人は確実に死ぬ。プールでの無神経で人は死なないが、クルマを運転するということは、つまりそういうことだ。クルマの免許をとったら、俺は加害者側、無神経側に加わる可能性を覚悟しなければならない。それは小さな銀の星をひっそり守ってきた俺にとって、否定しがたい自己矛盾を抱えることでもある。
 すべての教習課程は終わった。明日は卒業検定である。